”必要条件・十分条件の意味がよくわからない”というのは、数学を勉強している誰もが通る道ではないでしょうか。
わかりにくい原因は、”教科書に載っている定義”にあります。
なので、ここでは、必要条件・十分条件を日常生活での例えを使ってわかりやすいように説明いたしました。
そういった具体例を通じて、必要条件・十分条件がわかれば、教科書に載っているわかりにくい定義の意味も理解できるようになります。
もう”覚え方”なんてものに頼る必要はなくなります。
教科書の定義はわかりにくい
まずは、教科書でどのように必要条件・十分条件が定義されているかを紹介いたします。
2つの条件 \( p,q \) に対して、\( p \) ならば \( q \)が成り立つ(真である)とき
- \( q \)は、\( p \)であるための必要条件である
- \( p \)は、\( q \)であるための十分条件である
という。
どういうことを言っているのか、さっぱりわからない…。
そのように思われても仕方がありません。
必要条件・十分条件がよくわからないものになってしまっているのは、この定義がいきなり出てくるからです。
なので、この定義からいったん離れて、まずは日本語で必要条件・十分条件の意味を見ていきます。
必要条件・十分条件とは? 日本語で考えるとわかる
必要条件は、”クリアしなければならない条件”
まずは、必要条件について。
必要条件とは、簡単に言うと“ある目標を達成するためには、必ずクリアしなければならない条件”のことです。
たとえば、遊園地のアトラクションには、”6歳未満のお子様はご利用いただけません”といった注意書きがされているものがあります。
これは、”実際にアトラクションに乗る”という目標を達成するには、”6歳以上である”という条件を必ずクリアしていなければなりません。
このような場合、
実際にアトラクションに乗るためには、6歳以上であることが必要である
ということができます。
”必要条件”という言葉を用いると、
”6歳以上である”ことは、”実際にアトラクションに乗る”ための必要条件である
と言い換えることができます。
このように、”ある目標を達成するためには、必ずクリアしなければならない条件”のことを必要条件というのです。
ここで、注目しておきたいポイントが2つあります。
まず1つ目は、“目標を達成したときは、必要条件を必ずクリアしている”ということです。
遊園地の例でいえば、アトラクションを体験した人は、全員6歳以上です。
当たり前のように感じますが、この考え方が冒頭で紹介した数学的な定義とつながってきます。
そして、2つ目は、“必要条件を満たしても、目標が達成できない場合がある”ということです。
もしかしたら、他にも満たすべき条件があるかもしれません。
遊園地の例で言えば、年齢以外にも、「身長が130cmに満たない場合や安全バーに体が固定できない場合はご利用いただけません。」といった条件もありえます。
そういった場合は、たとえ6歳以上であっても、アトラクションには乗れません。
ここまで見てきたことをまとめておきます。
【必要条件とは?】
- ある目標を達成するためには、必ずクリアしなければならない条件
逆に言えば、目標を達成したときは、その条件をクリアしている - その条件を満たしていても、他にも条件があり、目標が達成できない場合がある
十分条件は、”目標が達成できる条件”
次に、十分条件について。
十分条件とは、簡単に言うと“クリアできれば、ある目標を達成できる条件”と言えます。
たとえば、あなたが100円ショップでアルバイトをしていて、レジ打ちをしているとしましょう。
そこに、外国人観光客の方がやってきました。
手には、100円の商品がひとつ。もう片方の手には、1万円札。
コレデ、タリマスカ?
はじめて日本にやってきたのでしょうか、日本の紙幣については、まだ詳しくない様子です。
そんなとき、あなたはきっと次のように答えるでしょう。
十分、足りますよ!
これは、”1万円札を持っている”という条件をクリアしていれば、”100円の商品を買う”という目標が達成できる、というように言い換えられます。
このような場合
100円の商品を買うためには、1万円札を持っていれば十分である
ということができます。
”十分条件”という言葉を用いると
”1万円札を持っている”ことは、”100円の商品を買える”ための十分条件である
と言い換えることができます。
このように、”クリアしていれば、ある目標を達成することができる条件”のことを十分条件というのです。
注意しておくポイントはひとつです。
それは、“十分条件を満たさなくても、目標を達成できる場合がある”ということ。
100円ショップの例で言えば、”必ずしも1万円札を持っている必要はない”ということです。
1万円札でなくても、千円札や5千円札を持っていれば100円の商品は買えます。お札じゃなくても、500円玉や100円玉、50円玉が2枚…など。
つまり、目標を達成できる条件は、他にもあり得るということです。
ここまで見てきたことをまとめておきます。
【十分条件とは?】
- クリアできれば、ある目標を達成できる条件
- その条件を満たしていなくても、他の条件を満たせば、目標が達成できる場合がある
必要条件・十分条件の意味がわかれば、定義が理解できる
ここまで、数学的な定義を離れて、”必要条件”・”十分条件”の意味について考えてきました。
ここからは、”冒頭に紹介した定義がどういうことを言っているのか”ということを、ここまで考えてきた意味から説明していきます。
冒頭に紹介した定義を、ここでもう一度掲載いたします。
2つの条件 \( p,q \) に対して、\( p \) ならば \( q \)が成り立つ(真である)とき
- \( q \)は、\( p \)であるための必要条件である
- \( p \)は、\( q \)であるための十分条件である
という。
このままの形ではわかりにくいので、この定義をわかりやすい形に少し言い換えてみます。
【必要条件・十分条件の定義(言い換え)】
- \( q \) ならば \( p \)が成り立つとき、\( p \)は、\( q \)であるための必要条件である
- \( p \) ならば \( q \)が成り立つとき、\( p \)は、\( q \)であるための十分条件である
※この言い換えは、必要条件の場合の\( p \)と\( q \)の部分を入れ替えただけです。なので、最初の定義と同じことを述べています。
このように言い換えたとき
\( q \)の部分は、いままでの具体例で見てきた”目標”にあたる
ということがおわかりでしょうか。
遊園地の例で見てきた”実際にアトラクションに乗る”や、100円ショップの例で見てきた”100円の商品を買う”が目標でした。
必要条件の定義は、”目標を達成したときに必ずクリアしている条件”を表している
まず、必要条件の定義の意味を見ていきましょう。
具体例を通じて見てきたのは、「”目標を達成したとき、必ずクリアしている条件”というのが”必要条件”である」ということです。
ここで、言い換えた必要条件を見てください。
「\( q \) ならば \( p \)が成り立つとき、\( p \)は、\( q \)であるための必要条件である」でしたね。
そして、\( q \)は、”目標”にあたる部分です。
つまり、「目標である \( q \) を達成しているならば \( p \) が成り立つとき、その条件 \( p \) は、 \( q \) を達成するための必要条件である」ということを、\( p \) や \( q \) で言い表したのが、教科書などに載っている定義なのです。
十分条件の定義は、”クリアできれば、目標を達成している条件”を表している
次に、十分条件の定義の意味です。
具体例を通じて見てきたのは、「”クリアできれば、目標を達成している条件”というのが”十分条件”である」ということです。
ここで、言い換えた十分条件を見てください。
「\( p \) ならば \( q \)が成り立つとき、\( p \)は、\( q \)であるための十分条件である」でしたね。
そして、\( q \)は、”目標”にあたる部分です。
つまり、「条件 \( p \) を満たしているならば目標 \( q \) が成り立つとき、その条件 \( p \) は、 \( q \) を達成するための十分条件である」ということを、\( p \) や \( q \) で言い表したのが、教科書などに載っている定義です。
数学の問題で必要条件・十分条件を確認する
最後に、数学の教科書に載っているような問題で、”必要条件”・”十分条件”について確認してみましょう。
(問題)
次の(1),(2)に関して、\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)に、”必要条件”・”十分条件”・”必要条件 かつ 十分条件”のいずれかの言葉を入れよ。
(1) \( x \)が12の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)である。
(2) \( x \)が3の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)である。
(3)\( x \)が2の倍数 かつ 3の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)である。
(解説)
必要条件・十分条件を考えるうえで、大切なのは”達成したい条件(目標)はなにか?”ということを意識することです。
この(1)~(3)の問題での目標は、”\( x \)が6の倍数である”ということです。
そのために、”\( x \)が12の倍数であること”や”\( x \)が 3の倍数であること”は、必要なのか?十分なのか?を考えて答えを出していきましょう。
(1)
まずは、必要条件かどうかについて
\( x \)が6の倍数であるために、\( x \)が12の倍数であることは必要でしょうか。
逆に言えば、\( x \)が12の倍数でなければ、6の倍数にならないのでしょうか。
そんなことはありませんよね。たとえば、18は12の倍数ではありませんが6の倍数です。
つまり、\( x \)が6の倍数であるために、12の倍数であることは必要条件ではありません。
次に、十分条件かどうかについて
\( x \)が6の倍数であるために、\( x \)が12の倍数であれば十分でしょうか。
言い換えれば、\( x \)が12の倍数であれば\( x \)は6の倍数でしょうか。
もちろん、12の倍数であれば6の倍数になりますね。
実際、12の倍数は、\( 12 \cdot n = 6 \cdot 2 \cdot n \)と表すことができるので、6の倍数であることが確かめられます。
なので、\( x \)が12の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための十分条件です。
以上より、\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)には”十分条件”が入ります。
(2)
まずは、必要条件かどうかについて
\( x \)が6の倍数であるために、\( x \)が3の倍数であることは必要でしょうか。
逆に言えば、\( x \)が3の倍数でなければ、6の倍数にならないのでしょうか。
3の倍数でなければ、6の倍数になりえませんよね。
実際、6の倍数は、\( 6 \cdot n = 3 \cdot 2 \cdot n \)と表すことができ、3の倍数でなければ6の倍数にはなりえません。
つまり、\( x \)が3の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための必要条件となります。
次に、十分条件かどうかについて
\( x \)が6の倍数であるために、\( x \)が3の倍数であれば十分でしょうか。
言い換えれば、\( x \)が3の倍数であれば\( x \)は6の倍数でしょうか。
そんなことはありませんよね。たとえば、9は3の倍数ですが、6の倍数ではありません。
なので、\( x \)が3の倍数であることは十分条件ではありません。
以上より、\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)には”必要条件”が入ります。
(3)
まずは、必要条件かどうかについて
\( x \)が6の倍数であるために、\( x \)が2の倍数 かつ 3の倍数であることは必要でしょうか。
逆に言えば、\( x \)が2の倍数でない または 3の倍数でない場合、6の倍数にならないのでしょうか。
2の倍数 かつ 3の倍数でなければ、6の倍数になりえませんよね。
実際、6の倍数は、\( 6 \cdot n = 2 \cdot 3 \cdot n \)と表すことができ、2の倍数 かつ 3の倍数でなければ6の倍数にはなりえません。
つまり、\( x \)が2の倍数 かつ 3の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための必要条件となります。
次に、十分条件かどうかについて
\( x \)が6の倍数であるために、\( x \)が2の倍数 かつ 3の倍数であれば十分でしょうか。
言い換えれば、\( x \)が2の倍数 かつ 3の倍数であれば\( x \)は6の倍数でしょうか。
もちろん、2の倍数 かつ 3の倍数であれば6の倍数になりますね。
実際、2の倍数 かつ 3の倍数であるならば、\( 2 \cdot 3 \cdot n = 6 \cdot n \)と表すことができるので、6の倍数であることが確かめられます。
なので、\( x \)が2の倍数 かつ 3の倍数であることは、\( x \)が6の倍数であるための十分条件でもあります。
以上より、必要条件でもあり十分条件でもあるため、\( \fbox{ $\phantom{hoge}$ } \)には”必要条件 かつ 十分条件”が入ります。
必要十分条件 必要条件でもあり、十分条件でもある条件
最後に、必要十分条件について
上記の問題(3)で見たように、「2の倍数 かつ 3の倍数である」ことは、「6の倍数である」ための必要条件でもあり、十分条件でもありました。
このように、必要条件でも十分条件でもある条件のことを”必要十分条件”といいます。
また、このようなとき、2つの条件は”同値”であるとも言います。
”同値である”と聞くと、なんだか難しそうに聞こえますが、簡単に言えば
「表現(言い方)は違うけど、2つの条件は同じことを言っている」
というのが”同値”です。
日常的な例になりますが、
- 「私は日本の首都に住んでいます。」
- 「私は日本で人口が一番多い都道府県に住んでいます。」
と、どちらの言い方をしても「私は東京に住んでいます。」という同じ事柄を言い表しています。
先ほどの問題(3)では、
- 「2の倍数 かつ 3の倍数である」
- 「6の倍数である」
といった2つの条件は、「言い方は違えど、数学的には同じことを言っている」ということです。
そして、2つの条件が同じであることを
「2の倍数 かつ 3の倍数である」ことと「6の倍数である」ことは同値である
というように表現するのです。